(上篇に続く)
除外状況
除外状況については、「民法典」第999条(合理的使用)1、第1020条における5つの法に従う合理的使用、権利侵害行為阻止成立の法定情状が含まれる。司法実務において、「裁判規則第5項」の「法に従う肖像権の合理的使用は権利侵害を構成しない」を適用することができる。他人の肖像を合理的に使用する際には、特定な目的及び条件を満たし、特定の公共利益と行為者の合法的権益を合理的に保護する必要がある。
実演家の過去に公開された肖像、舞台写真を使用することは、合理的使用の抗弁理由にはならないとされている。例えば、「葛優と深圳市滔視映画有限会社とのネット権利侵害責任紛争事件」の第一審2において、被告はその微信(wechat)のパブリックアカウントの関連文書に原告の肖像を使用し、関連アカウントの注目度を維持し又は引き上げることによって、潜在的ビジネスチャンスを増やすことを謀った。他人の肖像を使う際に、主観的な過失があり、他人肖像の使用に妥当性と必要性が欠けている。このような権利侵害紛争事件において、過去に公開された肖像を使用したことを理由に抗弁することはよくあるが、通常では、合理的使用の抗弁は成立しないとされる。
肖像権者と権利侵害者の間に労働関係が存在する場合には、使用者が従業員の肖像を合理的に使用することが認められる。労働関係が存在する場合、従業員と使用者の間に人身依存関係があるので、会社PRのために、従業員の肖像を使用することに、一定の合理性と正当性がある。従業員は在職中に、使用者がその肖像を使用することに異議を申し立てない場合には、その肖像使用に対し、黙示的に承諾したと見做される3。つまり、演出会社は、合理的な範囲内で、実演家の肖像、舞台写真を使用することができる。演出会社と労働関係のない実演家の肖像を使用する際には契約を締結し、使用の規範化を図る必要がある。
特に、肖像権侵害に該当するか否かを判断する際には、法律適用の時間効力規定を考慮する必要がある。「民法典」施行前の法律事実によって、引き起こされた民事紛争事件は、当時の法律・司法解釈が適用される。但し、法律・司法解釈に別段の規定がある場合を除く4。「民法通則」第百条は、公民の肖像権を侵害する行為は、「営利目的」の要件を満たす必要がある。例えば、「鄧氏と大同市平統営市彩久電子商取引センター、肖氏との肖像権紛争の第一審」5において、裁判所は権利侵害者が肖像権者の肖像を使用することによって、潜在的な商業利益を得たとして、営利目的の宣伝に該当すると判定した。但し、「営利目的」の行為要件が「民法典」の肖像権編に含まれていない。つまり、本人の許諾を得ていない肖像を「営利目的」として使用しなくても、「民法典」に基づくと、権利侵害の抗弁理由にならないとされている。
特別保護
芸能界には未成年の出演者も少なくない。未成年出演者の肖像を使用する際には、「民法典」の法定監護規定、「未成年者保護法改正(2020)」における保護者同意規定、「広告法」改正(2021)における未成年広告代理禁止規定、「個人情報保護法」(実施時期2021.11.01)における個人情報収集の提示規定を満たす必要がある。情報ネットワークを介して個人肖像を使用する際に、使用、拡散される対象はデータになるので、個人情報の法律定義に合致している6。14歳未満の未成年者の個人情報はセンシティブな個人情報に該当する。従って、未成年の出演者の肖像、特に14歳未満の出演者の肖像の使用は、保護者の明確的な同意を得て、センシティブな個人情報保護規則に従う必要がある7。
証拠保全
「裁判規則」及び多数の司法判例に基づくと、権利者は上記の4項目の内容を立証する必要がある。ネット環境下では、電子証拠保存方式を利用する証拠保存が特に重要である。原告が被告又は第三者のプラットフォームに肖像が存在したことを立証できず、権利保護訴訟に敗訴したケースもある。オンライン証拠は公証手続又はオンライン証拠保存プラットフォームによって、証拠を保存することができる。例えば、権利侵害者が無断で肖像を使用した商品のオンライン販売を行った事実について、権利者は公証手続を通じて、証拠を保存することができる。ネット裁判所の司法チェーン、第三者の証拠保存チェーン8を通じて、本人が係争肖像との対応関係を立証することができる。例えば、肖像権者は、新浪微博の個人認証ぺージと作品掲載リンク、作品の切り抜きを通じて、新浪微博の個人認証と本人実名との一致性、係争肖像の権利所属状況を証明することができる。権利者はその生活写真、動画を提供し、関連写真及び動画が係争写真・動画と同一人物を映していることを証明することができる。
権利侵害による損害賠償
肖像権侵害の法律責任について、「民法典」第995-998条は、補填原則を適用し、権利者の権利侵害行為によって被った実際の損失を補うと規定している。合理的範囲を超えた不当な使用行為に対しても、法に基づき、民事上の責任を負う必要がある。肖像権者の影響を利用して権利侵害者のサービス、製品の認知度を拡大する行為は、権利侵害者に大きな主観的過失があるとされている。裁判所は、権利侵害者の過失の程度、権利侵害方式及び持続時間、権利侵害のもたらした結果及び影響に基づき、権利侵害の賠償額を認定する。実務において、肖像権者は通常、電子商取引プラットフォームに記録された販売データ、サービス・製品単価を収集することによって、権利侵害者が権利侵害行為によって得た利益を証明することができる。肖像使用後の利益増加を正確に算定することができなくても、権利侵害者が不正利益を得た補足証拠とすることができる。実演家は、その肖像の市場価値を証明する広告契約を提供する必要がある。
尚、広告契約は、通常、肖像と氏名を同時に使用する許諾を含む。肖像権侵害事件における権利侵害者の実施する単一の侵害行為方式と異なり、権利者の損失を直接、算定することができないが、裁判所が関連損失を認定する上で重要な参照となっている9。賠償額の認定は裁判官の自由裁量の範囲であり、地域によって明確な差がない。例えば、ネット肖像権侵害事件の場合、北京、広州、杭州のインターネット裁判所の一部公開された判決で命じられた賠償額から見ると、基本的には、肖像権侵害された写真の枚数に基づき算定し、賠償額は権利者の知名度に応じて、1000-2000元/枚となっている10。
肖像権侵害事件の原告には重い立証責任が負わされている。権利保護訴訟のために、各種の費用及び時間コストを負担する必要がある。それゆえ、権利侵害期間が短く、不正使用された肖像の数が少ない権利侵害行為に対し、権利者は、第三者の電子商取引プラットフォームにクレームを申したて、訴訟前に和解することを優先的に選択することができる11。そうすれば、権利保護に費やす時間コストをある程度下げることができる。「繰り返して発生する権利侵害」、「多重権利が侵害された」(実演者権利、肖像権が侵害された)、「権利侵害者が多数存在する」、「権利者の社会的評価を下げる可能性のある」侵害行為に対し、肖像権者はしっかりと対応し、「審判規則」に従い、著作権保護の実務に基づき充分な準備を行う必要がある。