中国における「商品化権」の導入・発展の経緯に関する考察

先日、WikiMiliは世界で最も金儲けのIPランキングを発表した。「ポケモン」は依然としてトップに立ち、総売り上げは約1000億ドルとされており、「王者栄光」はトップ50入りを果たした初の中国国産IPであり、総売り上げは約99億7000万ドルとされている。関連グッズと小売が、これらのIPの最大の収入源であることは容易にわかる。ウィーチャットの公式アカウント「三文娯」が同ランキングを分析したところ、上位50個のIPの内、半分以上が、関連グッズと小売を最大の収入源としており、上位50個のIPの関連グッズと小売の収入が全体の52%を占めていた.
作者:倪 挺剛
2021-07-15 17:28:31

先日、WikiMiliは世界で最も金儲けIPランキングを発表した。「ポケモン」は依然としてトップに立ち、総売り上げは約1000億ドルとされており、「王者栄光」はトップ50入りを果たした初の中国国産IPであり、総売り上げは約99億7000万ドルとされている。下記はランキングのトップ五位(総売り上げ500億ドル以上)を切り取ってみた。


IP名称誕生年度総売り上げ (USD)売り上げ明細 (見積)原始媒体創作者(s)所有権者(s)
$500 billion以上
ポケモン1996約 $1000 億· グッズライセンス – $760 億· ビデオゲーム – $2.2716 億 · 興行収入– $18.38 億· 家庭娯楽 – $1.443 億· 攻略書籍 – $1.42 億· ジェット機売り上げ – $3億ビデオゲ―ム田尻智
杉森健
任天堂 (商標)
ポケモン会社(版権)
任天堂, Game FreakCreatures)
ハローキティ1974 約$845 億· グッズライセンス – $845.15億アニメキャラクター清水侑子
辻信太郎
サンリオ
熊のプーさん1924 約$803 億· 小売り – $798.23億· 興行収入 – $4.6 億· DVD &ブルーレイ  – $0.64 億元書籍A. A. Milne
E. H. Shepard
ウォルト・ディズニー・カンパニー 
ミッキーマウスとその仲間たち1928約 $803 億· 小売り – $795.31 億· 興行収入 – $4574 億· ホームビデオ – $2.93億アニメWalt Disney
Ub Iwerks
ウォルト・ディズニー・カンパニー 
スターウォーズ 1977約$687 億· グッズライセンス – $422.17 億· 興行収入 – $103.16億· ホームビデオ – $90.71 億· ゲーム– $50.1 億· 書籍 – $18.2 億· TV 収入 – $2.80億映画ジョージ・ルーカスルーカス映画
(ウォルト・ディズニー・カンパニー)

(出所:List of highest-grossing media franchiseshttps://en.wikipedia.org/wiki/List_of_highest-grossing_media_franchises

 

上記の表から見れば、関連グッズと小売が、これらのIPの最大の収入源であることは容易に見て取れる。ウィーチャットの公式アカウント「三文娯」が同ランキングを分析したところ、上位50個のIPの内、半分以上が、関連グッズと小売を最大の収入源としており、上位50個のIPの関連グッズと小売の収入が全体の52%を占めている。(データ出所: ウィーチャットの公式アカウント「三文娯」、「世界で最も金儲ける50個のIP:トップの売り上げが1000億ドルであり、その内、760億が関連グッズから得ている」

https://mp.weixin.qq.com/s/zv8jhw3dnvdsy0ezf3tkka)

 

一方、50位の「王者栄光」では、その収入のほとんどが、ゲームから得ている。

これらの国際IP大手の最も重要な収益源、いわゆる「デリバティブ&リテール」(データ出所によって、ランキングでは少し異なる表現を使用している。例えば、licensed merchandise、merchandise sales、retail sales等)は、IP運営契約、特に渉外IP運営契約における「商品化許諾」を指している。IPの商品化許諾を実現できるのは、そのIPに「商品化権」が含まれるからである。本稿では、国際IP大手が魔法のように使いこなす「商品化権」に関し、中国における導入、発展の経緯について考察する。

 

一、「商品化権」とは何か?

 

「商品化」とは、文字通り、「本来、商品ではないものを商品にする」ということを意味する。一部の商品化項目、例えば、「ワンピース」のルフィのフィギュア等では、このように解釈することができるが、その他の商品化項目では、商品化という表現を使用することは、少し違和感がある。

 

例えば、Tシャツにアベンジャーズのキャラクターをプリントした場合、Tシャツは元々、商品である。商品化というのは、マーベル・コミックのヒーローキャラクターが商品になったということを意味するのであろうか?ましてや、アニメキャラクターの「坊主頭の強」がコマーシャルに出ること、俳優が羊のぬいぐるみを着てデパートの開業イベントに参加する等を「商品化」との表現を使用することは、不条理である。

 

「商品化権」とは、1960年代、日本のテレビ局が米国企業とアニメ放送契約を結んだ際、日本側が「merchandising rights」を翻訳する際に、考案した漢字訳語であり、その後、中国の法学界がそのまま、使用した。「merchandising」を直訳すると、「商品の販売促進」という意味がある。例えば、キャラクターを「商品化する」ということは、キャラクターを利用して、商品(サービスも含む、以下同様)販売を促進することを意味する。そうすれば、上記のさまざまな「商品化」シーンが全て、合理的に解釈することができる。

 

世界知的財産権機関(WIPO)による1994年度報告書は、「キャラクター・マーチャンディシング」について、次のように定義している。「権利者(又は許諾された者)が、キャラクター の重要な個性的特徴を種々の商品に使用し、 消費者となる見込みのある人々に、そのキャラクターへの好感ゆえに商品を手に入れたいという感情を起こさせることを目的とするものである」。この定義は、「商品化権」という中国語訳語の影響を避け、当該概念の本質をよりはっきりと把握することができる。

 

商品化対象は、架空のキャラクターだけでなく、実在人物も含まれている。商品化が可能となる要素は、その主体の氏名(名前)、イメージ、肖像、音声等がある。

 

「商品化権」の本質及び現象から見ると、フィクション・キャラクターの商品化ライセンスは、そのキャラクターの著作権のライセンスによって、ほぼカバーされていることが分かる。実在人物の商品化ランセンスは、その人物の肖像権のライセンスを指している。人物の氏名等は、商標として登録することができる。意匠は意匠権として出願することができる。商標登録できない、又は短くて独創性を有せず、著作権法の保護を受けない作品名称、人物の氏名等であっても、それが十分、有名であり、他人に無断使用された場合には(例えば、ネットドラマ「思いも寄らないこと」の名称は、某テレビ局のバラエティ番組名称として使用された)、反不正競争防止法に基づき、権利保護を主張することができる。

 

「商品化権」は中国の法体系において、どのような地位を占めているであろうか。

二、「商品化権」問題が中国で取り上げられた

 

筆者らの調査によると、中国国内の法曹界が、「商品化権」という概念を初めて取り上げられたのは、1986年のテレビドラマ「済公」の「済公」というキャラクター権利の帰属紛争が起きた時であった。

1980年代、上海レコード会社は当時の人気ポップソングを集めたカセットシリーズを企画、発売した。タイトルは「リクエスト歌壇——あなたの一番好きな歌」。収録曲の中には、「西遊記」、「済公」等の人気映画、テレビドラマの主題歌、挿入歌が含まれていた。当該テープのジャケットは次の通りである。

 

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当時、テレビドラマ「済公」は全国で視聴ブームを引き起こし、奇跡の高視聴率を記録した。済公を完璧に演じきった遊本昌は全国で広く知られるようになった。遊本昌氏は当時、肖像権を侵害されたとして、当局の音楽映像管理部門にクレームした。本件は結局、肖像権侵害で決着された。

 

然しながら、この結果を受け、法曹界では、「済公」というキャラクター権利が俳優に帰属すべきか、それとも制作チームに帰属すべきかをめぐって論争が起きた。

 

肖像権、著作権のみでは解決しそうもないので、「キャラクター商品化権」という概念が導入された。当時、「商品化権」を「著作物のキャラクターを商品の標識として使用する権利」と定義する人もいた。

 

その後20年近く、中国の法学界では「商品化権」の概念について、広く議論されてきた。知財学界の重鎮である鄭成思、呉漢東教授も議論に参加し、「キャラクター権」という概念を提示した。「キャラクター権」は、人格権と著作権、商標権、商号権、のれんと版権の境界領域に存在する概念であり、キャラクター権は独立した財産権であると考えている。

 

一方、劉銀良教授は、上記に述べたように、「商品化権は訳語によって誤解があり、その本質はキャラクターを使った商品販売を促進することであり、商品化権が独立した権利と認定する確固たる法的根拠がないと指摘し、関連する権利は、不正競争禁止法を含む先行法律によって、調整すれば良い」との見解を示した。

 

三、中国の司法実務における「商品化権」

 

学界では、「商品化権」という概念を取り上げているが、裁判所はどうように対応しているであろうか。筆者らの調べによると、中国の司法実務において、商品化権をめぐる紛争は商標権の行政事件に集中している。

 

今までは、多くの知名文化芸術作品の作品名、キャラクター名称等が商標として登録され、関連グッズの開発に大きな支障を生じてきた。「商標法」は登録商標が「先行権利に損害を与えた」場合、先行権利の権利者は当該商標の無効を申請する権利があると規定している。然しながら、作品名称、キャラクター名は先行権利に該当するであろうか?

 

2011年の「邦徳007ボンド」事件から2015年の「TEAMBEATLES・添・甲虫」事件まで、裁判所は「商品化権」に対し、開放的な態度を取ってきた。「邦徳007ボンド事件」において、裁判所は、キャラクター名が保護される理由として、「高い認知度」、「権利者の知的労働の成果」、「権利者が多くの労働と資本を投入して、その商業価値とビジネスチャンスを得た」ことを挙げた。

 

「TEAMBEATLES・添・甲虫」事件において、裁判所は、有名バンドの名称が「潜在的な消費者を直接引きつけ、売り上げを増やし、より多くのビジネスチャンスを生むことができる」として、「潜在的なビジネスチャンスと商業利益が、当該バンド名の「商品化権利」である」と指摘し、法的権利ではないので、「商品化権益」と称するのが適切であり、法によって、保護されるべきであるとの見解を示した。

 

両事件において、裁判所は、「商品化権」の概念を明確に言及しただけでなく、「先行権利を損害した」ということを理由に、商標が無効であると判定した。

 

然しながら、2016年に判決された「黒子のバスケ」事件で、情況が少し変わったようである。同事件において、商標出願者は、「キャラクターの商品化権を侵害した」として登録済の他の商標の無効を請求した。北京知的財産権裁判所は、「黒子のバスケ」の中国での認知度を認めた上で、登録者が商標として「黒子のバスケ」を登録する行為によって、不当な利益を得たと認定し、「特に、その作品名、キャラクター名が法定の先行権利を構成していない場合、先行権利者及び利害関係者が商標登録を阻止することはできず、このような不正行為を規制することはできない。その他の方法で不当な利益を得たとして規制することによって、利害関係者に対する保護の空白を埋めた」との意見を示した。

 

裁判所は結局、「その他の不正な手段によって商標を登録した」という理由で、商標登録が無効であると判定した。判決結果は同じであるが、商品化権が法定の先行権利に該当することは否定した。

 

裁判所は「立法機関ではないのに、法的権利を新たに設けている」という世論のプレッシャーを受けたことから、そのような判決を下した可能性がある。直接に、商品化権を「権利」として認めていないが、実質的にその利益を保護している。

 

注意すべき事は、「先行権利を損害する」ということを理由に、商標無効を請求した場合には、5年の期限がある。その期間を超えると、商標の無効を請求できなくなる。一方、「その他の不正な手段によって、登録を取得した」ということを理由に、商標無効を請求する場合には、期限の制限がない。結果から見れば、逆に法的保護を強化したことになるので、法定の先行権利と非法定の権利に対する保護の度合いが逆転しているように見える。

 

四、商品化権は法定権利に該当するか?

 

2017年1月、最高裁は「商標授権及び権利確認に関する行政事件の審理における若干問題に関する規定」(2017年3月1日より施行、以下「規定」)を発布した。その第22条第2項は、次のように規定している。「著作権の保護期間中にある作品に対し、作品名称、作品中のキャラクターの名称等知名度が高く、関連商品で商標として使用することが、関連公衆に、権利者の許諾を得た又は権利者と特定の関連が存在すると誤解を生じさせる恐れがあり、当事者が先行権益を構成すると主張する場合、裁判所はそれを支持する必要がある」。

 

これによって、上記の問題はようやく決着がついたようである。多くの業界関係者は、商品化権は立法機関によって、法定権利として定められていないが、司法システムによって保護される権利として認められているとの見方を持っている。

 

然しながら、規制が施行されて間もなく、北京高等裁判所は「葵花宝典」紛争事件で、この誤解を解いた。

 

同事件において、裁判所は、「葵花宝典」が作品名称でもキャラクター名でもなく、「作品中の書籍名称」として、「葵花宝典」が先行権益として保護されるべきであることを否定し、「葵花宝典」商標の無効宣告請求を棄却した。

 

一見すると、商品化権が先行権益として保護されるか否かの境界線を引いたようである。つまり、厳密には「規定」の字面通り、知名作品の要素である作品名称、キャラクター名に該当するかが、先行権益を構成するかを決めている。然しながら、判決は、知名作品の名称、キャラクター名であっても、「既存法律規定の以外に、新たな民事権利又は民事権益を設けることを意味するものではない」と説明した。

 

判決は『商標評議委員会の裁決は、完美世界社の「商品化権益」の主張について、係争商標の登録が商標法の関連規定に違反しているか否かのみを認定した。係争商標の登録が完美世界社の主張する全ての先行権利又は権益を侵害しているかについて、全面的な認定を行っていない。当然ながら、係争商標の登録が,不正競争禁止法における不正競争行為阻止に伴う利益損失についても認定していない』と説明した。

 

つまり、裁判所の判決は、『「葵花宝典」商標が無効にされるべきではない、又は「葵花宝典」という名称が先行権益を有しないと主張していない。現行法以外に新たに「商品化権」を設けていないことを明らかにするために、商標評議委員会は、「商品化権」を理由に無効と判断したことでは法的根拠が不十分であり、改めて不正競争防止法の視点から全面的に評価する必要がある」との意思を示した。

 

中国の司法実務では、商品化権利の「名分」が明確に定められていない。然しながら、これらの判決からも分かるように、裁判所は少なくとも、関連利益を保護する必要があるとしている。新たな権利を設けなくても、中国現行の法体系下で、不正競争防止法によって保護することができると言える。

 

それによって、商標無効を申請する場合には、むしろ、5年の期限制限を克服することが可能となっている。そうすると、「商品化権」が法的権利であるかを追求する必要もなくなるであろう。