認罪認罰制度に存在する問題点に関する考察

中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議でなされた「決定」によって、「刑事訴訟における認罪認罰制度を整備する」との方針を発布した後、全国人民代表大会常務委員会の授権下で、最高裁、最高検、司法部、公安部は認罪認罰制度の試行を行った後、速やかに全国に普及した。認罪認罰の寛大処理制度は重大な司法制度革新とされており、国家管理システムと管理能力の現代化を推進するために重要な役割を果たしている
2021-04-09 17:12:26

中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議でなされた「決定」によって、「刑事訴訟における認罪認罰制度を整備する」との方針を発布した後、全国人民代表大会常務委員会の授権下で、最高裁、最高検、司法部、公安部は認罪認罰制度の試行を行った後、速やかに全国に普及した。認罪認罰の寛大処理制度は重大な司法制度革新とされており、国家管理システムと管理能力の現代化を推進するために重要な役割を果たしている。「認罪認罰の寛大処理」制度は、「公正を基に、効率を優先とする」価値観の具現化と司法資源配置の最適化という大きな使命を担っている。但し、多くの理論問題がまだ検討されており、制度細則が明確に定められていないにも関わらず、当局はこの重大改革の施行に踏み出した。最高検察庁が公表したデータによると、2020年において、認罪認罰の寛大処理制度の適用率は85%を超え、量刑意見の採納率は95%を超え、その他の刑事事件より21.7%高くなっている。上記のデータから見れば、刑事訴訟の各関係者にとってプラスのことであり、利益の最大化を実現したようであったが、「心からして懺悔して罪・刑罰を認めた被告がどれほどいるのか」という最も重要なことが見落とされていると言わざるを得ない。


一、問題点


現下、「裁判を中心する」という司法方針が貫徹されておらず、検察側と弁護側の地位に大きな差がある中で、認罪認罰制度の実践には次のような問題点が存在する。

第一に、認罪認罰の表面化。実務において、司法機関は認罪認罰制度を適用する際に、被告人の真実な動機ではなく、表面的な認罪形式のみを重視する傾向がある。「被告が認罪したか、量刑意見に同意するか、認罪調書に署名したか、和解合意又は諒解書があるのか」等の要素を考慮するが、被告人がプレッシャー又は減刑を得るために、認罪したか否かを調査しない。このような形式主義の司法傾向によって、改悛行為の自発性について表面的な審査のみを行い、改悛行為の真実性を無視する現象を生じさせた。

第二に、効果的な救済措置の欠如。周知のように、中国の刑事訴訟の弁護カバー率は非常に低いである。2019年10月、全国人民代表大会常務委員会で最高裁刑事審判専門報告を審議した際に、徐顕明氏は、現在、全国の刑事訴訟の弁護カバー率が23%であり、弁護カバー率を大幅に引き上げる必要があると指摘した。その制度上の欠陥を改めるために、当番弁護士制度が設けられた。然しながら、実際の所、当番弁護士が被告人のために、効果的な弁護を提供することは困難であり、ある意味、当番弁護士は当該制度の「立合人」にすぎないである。筆者自身の経験及びその他の弁護士とのやりとりで得た情報から見ると、関連刑事事件において、検事が被疑者と量刑について、協議を終えた後、弁護士に通知するケースが多く、弁護士の意見を聞く際には、量刑の詳細内容について協議するのではなく、寛大処理の意見のみを伝える。それによって、弁護士が法律上のアドバイスを提供する際も、被疑者に量刑意見と法的手続の適用しか教えず、量刑結果を変えることは非常に困難である。被告人が依頼した弁護士でさえ、その程度のことしかできないので、当番弁護士にはなおさら期待できないであろう。

第三に、捜査機関及び公訴機関と被告人に大きな情報格差がある。刑事訴訟において、書類閲覧権は被告人の固有権利であるとされている。然しながら、刑事訴訟法は被告人の書類閲覧権について、明確に定めておらず、弁護人が被告人に関連書類を提供する権利を有するかについて、未だに争議がある。実務の中で、多くの弁護士は自己保護するために、被告人に関連書類を提供しない傾向がある。検察側も被告人に、その入手した情報を全て開示する義務がない。つまり、検察側と被告側との認罪認罰交渉は、深刻な情報格差が存在する状況下で、行われている。ある意味、これが認罪認罰制度の目的であり、情報の非対称性を通じて、被告人が認罪認罰を選択せざるをえないという効果を狙っている可能性がある。

捜査段階における認罪認罰制度の適用は、上記の問題が更に顕著化となっている。捜査段階において、被告人は弁護士を依頼しないことが多い。たとえ弁護士を依頼したとしても、弁護士は事件証拠を把握していないため、捜査機関に受け入れられる意見を提出することは困難である。当番弁護士にはなおさら期待できないであろう。このような状況下の認罪認罰は果たして、どれほどの効果があろうか。

第四に、検察に対する制約が足りず、裁判を中心とする制度が架空されている。現行の認罪認罰制度は、原則上、事件事実、罪名、罪数について協議を行うことが認められていない。つまり、起訴側と弁護側に平等的な協議が存在しないと言える。尚、検察側は認罪認罰制度を適用することができ、その量刑意見は裁判所に法的拘束力がある。そもそも制約が足りないが、裁判官は刑事訴訟法の「一般的に受け入れるべきである」という規定を満たし、自身の審判負担を軽減するために、法廷審理を始める前に、検察と意思疎通を行い、事実認定、法律適用、量刑意見について協議する傾向がある。法廷で公訴人と弁護士が証拠提出、質疑、弁論を行い、裁判官が審判するはずであったが、公诉人と裁判官の私的交流によって解決することになっている。認罪認罰制度が適用される刑事事件に対し、実質的な審判を行っておらず、被告人の供述と認罪調書のみを重視することになっている。裁判実質化の改革に逆行し、むしろ伝統の刑事訴訟モデルの弊害を強化した。

特に、一部の共同犯罪事件においては、検察側が法廷審理を行う前に、一部の被告人と認罪認罰について合意を達成したことによって、弁護士が共同無罪を主張することができなくなったこともある。このような場合、裁判所は認罪認罰事件に関わる事実及び証拠を厳しく審査する必要がなくなる可能性がある。更に、検察側は、一部の共犯者が認罪認罰した後、簡易裁判を通じて、迅速に有罪判決を下した後、その有効判決をもって、認罪していない被告人に、有罪判決を下すことを促すこともある。


二、原因


認罪認罰制度が多くの問題を抱えているのは、複雑な理由がある。

第一に、先天的な不足。現在の訴訟モデルでは、司法機関の権限配分は形式的なものであり、権力の抑止・均衡を実現していない。起訴、弁護、審判の三者が存在するが、実質的には、起訴側と被告人の両者が対抗することとなっており、刑事訴訟の過程は流れ作業のように標準化される傾向がある。捜査権、公訴権を有効に制約する制度は今のところ、形成されていない。認罪認罰制度が適用される際に、自発性、真実性、合法性が十分に保障されていないのは、認罪認罰制度そのものに問題があるのではなく、当該制度を取り巻く環境が整備されておらず、先天的な不足があるからである。認罪認罰の「任意性」を例にすると、違法証拠の排除規則が実行されておらず、被告人が供述を覆しても、裁判官に認められず、逆に「改悛態度が悪い」とされ、重く処罰されることになる。筆者の経験に基づくと、個別の裁判官は被告人に認罪態度を量刑の考慮要素としていることを明確に伝えたこともある。然しながら、今まで発覚された冤罪事件でも示したように、自白の強要による「虚偽認罪」は中国刑事訴訟の痼疾の一つであり、いまだに妥当に解決されていない。このよう状況下で、認罪認罰の「自発性」をどのように保障すれば良いであろうか。

第二に、検察官と裁判官の権利の不均衡。検察は憲法に定められている法律監督機関であり、公訴権のみならず、逮捕権も有するため、被疑者を長期間、拘束することができる。認罪認罰制度が導入されることによって、事実上、量刑権限が裁判官から検察官に移り、検察主導下の逮捕・起訴・裁判が一体化となる構図が形成された。この権力配置によって、被告の運命が検察側に握られることになり、裁判所は検察に協力して、法的手続を完成することが多く、憲法と法律に定められている「裁判所が独立した裁判権を有する」原則と、裁判を中心とする刑事訴訟制度の改革方向と大きく乖離したので、新たな冤罪事件を生じさせる可能性が大きい。

第三に、非科学的な評価基準。認罪認罰適用率及び量刑意見の採納率等の評価指標が非科学的であり、一部の捜査員はそれらの指標を早く達成ために、捜査の適正性を確保できていない。本来、各地の刑事事件の件数、構造、定員司法官の能力と補助人員の配置等に大きな格差がある、全国範囲で、統一的に適用率を70%以上を要求することは、必然的に、「司法基盤が弱い」、「多くの重大事件を抱える」、「裁判官の能力が低い」地域に大きな負担をかけることになる。特に、最高検察庁は昨年、70%を維持した上で、「2つの向上、1つの低下」の達成という目標を掲げており、適用率80%以上がノルマとなっている。このような目標は、検察の積極的な精神を示したものの、プレッシャーを抱えている現場の捜査員が過度に、適用率と採納率を追求し、証拠に存在する問題点を無視する恐れがある。このような非現実的な評価指標は、事件処理の適正性に影響を生じかねない。


三、解決策


認罪認罰制度が本格的に施行された以上、少なくとも一定の措置を採ることによって、現在の矛盾を緩和し、上記の問題を解決することを図ることができる。

第一に、弁護士の効果的な参与を図ること。現在、弁護士の参与が深刻に不足しているので、最も直接的な解決策は、特に新しい種類の事件、重大事件等においてに、弁護士の効果的な参与を図ることである。例えば、認罪認罰制度が適用される刑事事件において、弁護士が参与しない場合、認罪認罰の関連規定を被告人に知らせることのみができ、認罪調書に署名することを要求してはならないと規定する。それによって、検察が情報の非対称性等を利用して被告人に、強制的に認罪調書に署名させることを防止することができる。また、被告人が私選弁護士に依頼した場合、当番弁護士と量刑又は認罪調書について、協議してはならないと規定する。その理由は前述のとおりである。新たに改正された刑事訴訟法の司法解釈は、「当事者は、家族によって依頼された弁護士と指定された法的支援を提供する弁護士から、自ら、弁護士を選定することができる」と規定している。特に重大事件において、検察側は、いつでも被告人を取り調べることができることを利用して、被告人に指定弁護士を選択することを強要、誘導する可能性が高い。また、当番弁護士と同様に、指定弁護士も有効な弁護を提供する動機が弱く、私選弁護士と同等の役割を果たすことが期待できないので、認罪認罰の自発性、真実性を保証することが困難である。

第二に、被告人の情報知る権利への保障。訴追される側の知る権利を保障するために、「認罪認罰寛大処理制度の適用に関する指導意見」第29条に、「検察は個々の事件の具体的な状況に基づき、証拠開示制度を探求し、犯罪容疑者の情報知る権利と認罪認罰の真実性と自発性を保障することが可能である」と規定している。然しながら、制定者は問題を意識しているものの、「可能」、「探索」等の曖昧な概念及び表現を使っているため、被告人の情報知る権利を保障することは容易ではないと考えられる。それでも、弁護人の参与が著しく不足しており、権力均衡が欠く状況下で、公訴側が被告人に証拠を提示すれば、少なくとも一定程度、対立を和らげることができるであろう。

第三に、非科学的な評価基準を改める。裁判所と検察庁は、いずれも上級機関の要求によって、司法職務評価制度を設けている。検察庁の場合、認罪認罰制度の適用も、評価の重要内容である。然しながら、前述したように、最高検察庁は全面的に統一の適用率と採納率等を推進しているが、全国各地の状況が大きく異なるので、統一的な基準は果たして、適切なものであろうか?これらの評価指標の基準は何なのか?各地で盲目的な競争が起きたら、どうすれば良いであろうか?少なくとも首席検事の返答から答えを見出せなかった。これらの評価指標が司法規律と実際の状況と適応しない場合、司法の公正性と効率に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、不合理的な評価基準を改革又は整備することを避けられないであろう。

 

参考資料:

1. 闫召華:虚偽の懺悔:技術的な認罪認罰に隠された懸念とその対応。法制と社会発展2020年第3期

2.龍宗智:認罪認罰を改善するカギは公訴側と弁護側の均衡である。環球法律評論2020年第2期

3.張智輝:認罪認罰の寛大処理制度の適用における幾つかの誤ち、法治研究2021年第1期

4.孫長永:認罪認罰司法制度の実施における5つの矛盾と解消方法、政治と法律2021年第1期

5.王敏遠:認罪認罰制度の処理し難い課題に関する研究、中国法学2017年第1期

6.最高検察庁のパブリック・アカウント:認罪認罰の寛大処理制度の五つの質問、首席検察官による公衆の注目問題に対する回答 2021.2.21