2020年12月26日、第13期全国人民代表大会常務委員会第24回会議は、「中国刑法改正案(十一)(以下、「改正案」)を可決した。同改正案は2021年3月1日より施行されることになる。今回の改正案は、知的財産権保護の强化を図るため、著作権法、商標法等の改正に基づき、知的財産権犯罪の関連規定について、更なる改正、整備を行っている。その内、商標類犯罪対象とされる商標種類、最低刑罰、法定最高刑、量刑要件に変更があり、注目に値する。
条項比較:商標類犯罪条項の変更点
「刑法」第三章第七節第213条-215条 商標類犯罪改正条項比較
罪名 | 現行刑法 | 2020年刑法修正案(十一) |
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第213条 登録商標虚偽表示罪 | 登録商標権者の許諾を得ずに、同一種類の商品、サービスにその登録商標と同じの商標を使用し、情状が重大な場合、三年以下の懲役又は禁錮、罰金を併科或いは単独に処す。情状が特に重大である場合、三年以上七年以下の懲役に処し、かつ罰金を併科する。 | 登録商標権者の許諾を得ずに、同一種類の商品、サービスにその登録商標と同じの商標を使用し、情状が重大な場合、三年以下の懲役、罰金を併科或いは単独に処す。情状が特に重大である場合、三年以上十年以下の懲役に処し、かつ罰金を併科する。 |
第214条 登録商標虚偽表示商品の販売罪 | 登録商標を詐称した商品と知りながら販売し、販売金額が比較的大きい或いはその他重大な情状がある場合、三年以下の懲役又は禁錮、罰金を併科或いは単独に処す。販売金額が巨額或いはその他特別に重大な情状がある場合、三年以上七年以下の懲役に処し、かつ罰金を併科する。 | 登録商標を詐称した商品と知りながら販売し、違法所得額が比較的大きい或いはその他重大な情状がある場合、三年以下の懲役、罰金を併科或いは単独に処す。違法所得額が巨額或いはその他特別に重大な情状がある場合、三年以上十年以下の懲役に処し、かつ罰金を併科する。 |
第215条 登録商標の標識の不正製造、販売罪 | 他人の登録商標の標識を偽造、無断製造、或いは偽造或いは無断製造された登録商標の標識を販売した場合、情状が重大な場合、三年以下の懲役、罰金を併科或いは単独に処す。情状が特に重大である場合、三年以上七年以下の懲役、かつ罰金を併科する。 | 他人の登録商標の標識を偽造、無断製造、或いは偽造或いは無断製造された登録商標の標識を販売した場合、情状が重大な場合、三年以下の懲役、罰金を併科或いは単独に処す。情状が特に重大である場合、三年以上十年以下の懲役、かつ罰金を併科する。 |
変更一:商標種類の拡大。犯罪対象をサービス商標に拡大している
今回の改正案において、商標類犯罪に対する大きな改正は、サービス商標への重大侵害行為を、登録商標偽造罪の範囲に組み入れたことである。これまで、サービス商標を登録商標偽造罪の対象と認定できるか否かについて、法曹界では長きにわたり、論争があったが、中国のサービス業の急速な発展と伴い、サービス商標に対する刑事司法保護を強化することは既に、当面の急務となっている。
商品商標とサービス商標に対し、同等の刑事司法保護を与える理由は下記の通りである。
1、商品とサービスは異なる消費方式、使用方式があるものの、商品商標とサービス商標は同様に、商品又はサービスの出所を識別する役割を果たしており、その機能は同じである。2、「商標法」はサービス商標に対し、特别規定又は例外規定を定めていない。「商標法」が異なる商標類型に対し、同等の保護を与えているので、「刑法」も一致させる必要がある。
「同一種類のサービス」の定義について、新しいサービス業種が絶えず、現れている中、(例えば、宅配、出前、通信業)、「最高裁、最高検、公安部による知的財産権侵害刑事事件の法律適用問題に関する若干意見」(2011年1月10日より施行)第5条における「同一種類の商品」の認定方法を参考できるか否かは、更に検討する必要があると思う。
変更二:刑罰を強化し、有期懲役を最低刑罰として、最高刑が10年に引き上げられた
今回の改正案は、知的財産権に関連する五つの罪名の刑期を引き上げ、刑事処罰を強化した。特許偽造罪を除き、禁錮・拘留を主刑から削除した。商標類犯罪は有期懲役を最低刑罰として、最高刑が七年から十年に引き上げられた。商標類犯罪に対する刑事処罰を強化したことは明らかである。
変更三:量刑要素の調整。「販売金額」から「違法所得」に変更されている
登録商標虚偽表示商品の販売罪の量刑要素は「販売金額」から「違法所得」に変更されている。通常、「違法所得」は「販売金額」より低いので、一部の弁護士は、現在、この種の事件を処理する際に、直ちに、「違法所得」を算定し、販売金額が違法所得より低い場合、量刑を減軽する弁護意見を提出する必要があり、違法所得が特に低く、その他の知的財産権の関連犯罪を認定する際の違法所得の最低基準よりも低い場合には、無罪弁護を行う必要があるとの意見を示している。筆者は、「違法所得」と「販売金額」をそれぞれ、算定し、刑法の「旧法規定を優先的に適用し、法定刑の限度内で、軽く処罰する」原則に基づき、「刑法改正案」のほうが被告に有利かどうかを判断する必要があると考えている。
第二百十四条における「違法所得」の認定問題について、関連司法解釈が発布する前に、最高裁、最高検によって公布された「知的財産権侵害刑事事件における法律の具体的応用の若干问题に関する解釈(三)」(2020年9月14日より施行)を参考することが可能であると考えられる。同解釈の第4条と第5条は、営業秘密侵害罪の「違法所得」問題について、規定している。第10条は、罰金関連問題について、規定している。知的財産権侵害罪については、違法所得、違法販売額、権利者に与えた損失額、権利侵害商品の数量及び社会危害性等の事情を総合的に考慮し、法律に基づき罰金を科す必要がある。登録商標虚偽表示商品の販売罪の「違法所得」の認定については、今後の司法解釈及び実務上の対応を注視する必要がある。
结び
今回の刑法改正案は、商標類犯罪に対する規制を改正し、商標類犯罪への処罰を強化した。上記のように、登録商標虚偽表示罪における「同一種類のサービス」、登録商標虚偽表示商品の販売罪における「違法所得」の認定等については、更に検討を行い、新たなに発布される司法解釈によって、明確な基準を示す必要があると考えられる。