責任制限条項の法的効力に関する考察 

企業は事業運営において、様々な契約リスクに直面にしている。リスク管理の意識が高まるにつれ、多くの企業は、リスク予防を重視するようになっている。契約の中で、責任制限条項を約定することはよく採用されるリスク回避手段である。責任制限条項とは何なのか?どのような役割を果たしているのか?契約に責任制限条項を約定することは有効であるのか?これらの疑問を答えるため、本稿では責任制限条項を詳しく分析してみたいと思う。
作者:郭耀杰
2020-10-22 15:41:58

企業は事業運営において、様々な契約リスクに直面にしている。リスク管理の意識が高まるにつれ、多くの企業は、リスク予防を重視するようになっている。契約の中で、責任制限条項を約定することはよく採用されるリスク回避手段である。責任制限条項とは何なのか?どのような役割を果たしているのか?契約に責任制限条項を約定することは有効であるのか?これらの疑問を答えるため、本稿では責任制限条項を詳しく分析したいと思う。


一、通常の責任制限条項

責任制限条項とは、契約の中で、双方の当事者が合意した、一方又は双方の当事者が負うべき責任について、これを制限する条項である。責任制限条項は、企業が損害賠償を請求された際に直面するリスクを制限し、賠償責任の範囲を制限することを目的としている。明確に規定され、且つ有効な責任制限条項は、損害賠償を請求された場合の損害賠償額を制限することができる。

下記は幾つかの例に基づき、責任制限条項を考察する。

(1)責任制限条項に損害賠償額の上限を設ける。

例1:「契約双方の利益を保証するために、相反する規定がない限り、本契約の当事者の何れが本契約に違反した場合、相手方に対し負担する損害賠償総額は100万元を超えないものとする。」

例2:「荷物損害賠償の保証サービスを選択していない場合、順豊宅配便は顧客の支払った運賃の七倍以内で、荷物の実際損害を賠償する。双方に別途、約定がある場合、その約定に従う。……既に荷物損害賠償保証サービスを選択し、関連費用を支払った場合、荷物が破損、減失した際、不足の場合には、順豊宅配便は保証金額と実際損失の比例に従い、顧客の損失を賠償する。荷物が紛失した際の最高賠償額は、荷物損害賠償保証サービスを選択した際に表記した額とする」

(2)責任制限条項により、偶発的・特殊的・間接的な損害賠償を排除する(つまり、直接損害を上限とする)

例:「顧客の荷物によって得る収益、実際用途、ビジネスチャンス等の如何なる間接的損失に対し、順豊宅配便は賠償責任を負わない。」

(3)責任制限条項により、他の契約当事者に対する責任を制限する。

例:「会社の行為又は不作為が、故意又は重大な過失行為、詐欺行為又は明白な違法行為に該当しない限り、会社は第三者の責めに帰すべき事由による損害賠償責任を負わない。」


二、責任制限条項の法的効力

1、責任制限条項が一般条項である場合の法的効力

責任制限条項は、一方又は双方の法的責任を制限する免責条項の一種である。違約責任と権利侵害責任は任意性だけでなく、一定の強行性の性質を有するため、免責条項の有効性は私法自治の原則だけでなく、民法の信義誠実の原則、公序良俗の原則、公平の原則を順守する必要もある。

免責条項の法的効力については、異なる状況に応じて、認定する必要がある。通常、当事者が十分な協議を経て定めた免責条項であれば、当事者の意思に基づいたものであり、公共利益に違反しなければ、法律は免責条項の法的効力を認めている。例えば、最高裁(2017)最高裁民終431号民事判決書、北京市第二中等裁判所(2017)京02民終9884号民事判決書、重慶市高等裁判所(2013)渝高法民終字第00258号民事判決書等において、裁判所は責任制限条項が有効であると認定している。

正常な取引を保護し、免責条項の濫用により、一方の当事者の利益を過度に毀損することを回避するために、信義誠実原則と公共利益に著しく反する免責条項は、法律で禁止されている。

中国「契约法」(以下、「契約法」)第五十三条は、契約で約定した免責条項が、以下の2つの事由に該当する場合には無効とすると規定している。

(1)相手に人身傷害を生じた

(2)故意又は重大な過失により相手に、財産上の損害を生じた。

これらの2つの例外要件とは少し異なるが、公共秩序や社会道徳に反することを排除することを基本趣旨としている。

責任制限条項の本質は、将来に発生するリスクに対する責任範囲の限定とリスクの分配である。契約を締結した後に、新たに発生しうる事由に対する責任免除と制限であるため、当事者は、契約を締結する前に既に発生した又は発生しているリスクを隠してはならない。これは責任制限条項の本来の趣旨であり、信義誠実原則の要求でもある。一部の法規は、信義誠実の原則に違反する免責条項を否定的な見解を示めしている。例えば、「最高裁判所による売買契約紛争事件審理における法律適用問題に関する解釈」(以下、「売買契約司法解釈」)第三十二条は、「契約に売主の対象物の瑕疵担保責任を軽減又は免除すると約定したが、売主が、故意又は重大な過失により、买主に対象物の瑕疵を知らせなかった場合、売主が契約の約定に従い、瑕疵担保責任の軽減又は免除を主張する際、裁判所はそれを支持しない」と定めている。このような対象物の瑕疵担保責任の軽減又は免除約定に関する例外規定は、信義誠実の原則に関する民事法の要求を反映している。

司法実践の中で、2019年第5期の「最高裁判所公報」は、制限責任条項に関する判例を掲載した。上海市中等裁判所滬01民終9095号(2017)民事判決書において、不動産開発業者が契約を締結する際に、不動産引き渡しが遅延するリスクが存在することを隠し、再び引き渡し期間を計画する能力があるにも拘らず、買主にそのリスクを知らせなかった。買主は、不動産開発業者の承諾した引き渡し期限が実際の工事進捗条件を十分に考慮し、既存のリスクを速やかに解消でき、後続の履行で新たな免責事項が発生しなければ、当該期間内に不動産の引き渡しを行うことができると信じる理由がある。従って、双方の約束した責任制限条項の範囲は契約の後続履行に現れるリスク事項であり、引き渡し期間を定める際に、既に考慮されている現実リスクを含むべきではないと考えられる。責任制限条項は契約を締結する際に、隠された現実リスク事項に適用できない」との見解を示した。最終的に、当該責任制限条項は、契約を締結した際に、既に存在したリスクを兔除することができないので、不動産業者が敗訴した。それゆえ、企業は契約を締結する際、責任制限条項の関連事項を取引相手に通知する必要がある。特に責任制限の範囲内で、すでに発生した重大なリスクを通知し、取引相手の利益を保護しなければ、責任制限条項の法的効力が認められない可能性がある。

当事者が自ら協議し締結した責任制限条項は、通常、法律上、有効であると認められる。しかし、同条項が公共利益を著しく毀損し、信義誠実の原則に反する場合には、その効力が法律上、否定される恐れがある。

2、責任制限条項が定形約款と認定された場合の効力

責任制限条項が定形約款と認定された場合、下記の事項に注意を払う必要がある。

「契約法」第三十九条第一項は、責任制限条項が定形約款に該当する場合、責任制限条項は、公平原則に基づいて定められている必要があり、契約締結時に合理的な方法を通じて、契約相手方が責任制限条項へ注意を払うよう促し、相手方から要求があれば、当該条項について説明する必要がある」と規定している。例えば、宅配業界はよく、標準契約を利用するため、「宅配管理弁法」第十九条第二項は、「企業責任を免除又は制限する若しくは宅配便(郵便物)の損害賠償に関連する条項は、宅配便の運賃表に目立つ形で記載し、詳しく説明する必要がある」と規定している。

自然人が企業と、ネット・プラットフォームを通じて、契約書を締結することがよく見受けられる。『最高裁による「中国契約法」の適用における若干問題に関する解釈(二)』(以下、「契約法司法解釈二」)第六条第一項では、企業は契約書中で、責任制限条項を太字、下線や傍点等を通じて明確に表記し、取引相手の注意を喚起し、適切に説明する必要があると規定している。そのようにしておけば、責任制限条項の有効性が強化され、将来、相手方に訴訟を提起された際の証拠として使用することができる。

例えば、北京市中等裁判所は(2014)一中民終字05346号民事判決書において、「北京市民の劉鳳清氏がディズニー英語研修会社と締結した英語研修契約が、ディズニー英語研修会社が予め作成した標準契約に該当するが、ディズニー英語研修会社が同研修契約において、既に責任制限条項を太字、下線、傍点等の形で表示していた。劉鳳清氏も、同条項と契約要件を理解したことを確認し、署名した。従って、ディズニー英語研修北京会社は契約締結時に、既に合理的な方法を通じて、責任制限条項への提示、説明義務を尽くした。それゆえ、同研修契約の責任制限条項は有効である」と認定した。[北京市第一中等裁判所(2014)一中民终字第05346号劉鳳清とディズ二―英語研修(北京)有限会社との研修契約紛争事件。]

契約法司法解釈二法第九条は、責任制限条項について提示、説明しなければ、契約相手は、取引を撤回することができると規定している。「中国民法総則」(以下、「民法総則」)第百五十二条は撤回権の除斥期間について、取引相手が撤回事由を知った又は知るべき時点から、1年間以内に、撤回権を行使しなければ、撤回権が消滅し、責任制限条項は依然として有効であると規定している。


3、責任制限条項と完全賠償原則との関係

責任制限条項の本来の趣旨は、損失賠償額を制限することである。契約法第百十三条第一項は、当事者の一方が契約義務を履行しない又は約定通りに履行しないことによって、相手に損失をもたらした際に、損失賠償額は、契約違反によってもたらされた損失に相当しなければならず、契約履行によって得られる利益を含むことができるが、契約に違反した一方の当事者が、契約締結時に、予見した又は予見し得る契約違反による損失を超えてはならない。責任制限条項と完全賠償原則は、損失賠償の性質、発生方式、具体的内容において異なっているほか、その適用において、どのような区別があるか?特に、責任制限条項はどのような場合において、完全賠償原則の適用を排除することができるのであろうか?

第一、完全賠償原則は、契約違反の法定賠償責任原則であり、法律に特別な規定がない又は当事者が別途に約束がない場合に適用し、直接損失と間接損失への賠償を含む。そのうち、直接損失は、財産の直接的な減少を指しており、間接損失は契约締結時の予期利益を失うことを指している。

第二、契約に責任制限条項が定められた場合、責任制限条項と完全賠償原則の適用は下記の原則を遵守する必要がある。

(1)責任制限条項が責任限度額を定めている場合、実際の損失が責任限度額より低い場合、完全賠償原則に基づき賠償を行い、損失を補うことになる。しかし、実際の損失が責任制限条項の限度額より高い場合には、責任制限条項に基づき、損失賠償責任の範囲を制限することができるので、法定の完全賠償原則が適用されなくなる。この場合,実際の損失を補填できないが、双方の当事者が責任制限条項について協議し、合意した以上、当該限度額は、双方の当事者が、将来に生じ得る損失への見通しに合致しているはずである。予見可能規則も一定程度において、適用されている。

(2)責任制限条項の中で賠償責任が直接損失のみであるとしている場合には、完全賠償原則が適用されない。間接損失を賠償する必要がなく、直接損失のみを賠償すればいい。これは、双方の当事者が間接損失への賠償責任を事前に免除した結果である。

第三、契約に違約賠償責任条項を約定している場合には、責任制限条項、完全賠償原則、違約賠償条約が混在しており、更に複雑になるので、下記の二つの情状に分けて説明を行う。

(1)違約賠償責任条項に違約金又は違約金の計算方式を定めているが、責任制限条項に損失賠償の限度額を規定している場合には、違約者は、違約賠償責任条項に基づき、損失を賠償する必要がある。違約金が実際の損失を遥かに、上回る又は下回る場合、「契約法」第百十四条第二項に基づき、調整を行うことができる。最終的に、違約金は損失賠償の最高限度額を超えてはならない。つまり、違約金が最高限度額を越えた場合、責任制限条項が、契約当事者が負うべきリスクを制限する役割を果たすことができる。

(2)違約責任条項が違約金又は違約金の計算方式を定めるが、責任制限条項が、直接損失の賠償のみに限定している場合、違約者は、同様に違約賠償責任条項に基づき、賠償する必要がある。違約金が実際の損失より遥かに上回る又は下回る場合には、「契約法」第百十四条第二項に基づき、調整することができる。そのうち、違約金が実際の損失より遥かに上回る又は下回るか否かを判断する際、実際の損失の计算を直接損失のみが含まれることになる。責任制限条項が既に完全補償原則の適用を排除し、損失範囲を改めて定めたことにより、違約金への調整は改めて定めれれた直接損失に基づいて行う必要がある。

「契約法」における損失賠償原則は完全賠償原則を主要原則として、予見可能規則を補助原則としている。契約違反への損失賠償は当事者の一方が契約を締結する際に、予見した又は予見し得る契約違反による損失を限度とすることを明確に規定している。然しながら、契約相手にとって依然として大きなリスクがありうる。責任制限条項を定めていなければ、契約違反が発生した際、取引相手が請求可能な金額を予見できず又、取引相手も高い賠償額を求める傾向がある。企業の訴訟コストが増加する恐れがあるので、契約で責任制限条項を約定しておく必要がある。


上記のように、通常、企業間で締結した契約の責任制限条項は有効である。標準契約と認定された場合、説明責任を果たせば、責任制限条項も有効である。そのため、企業はリスクをコントロールし、将来、損失賠償を請求された際の予期管理を図るため、契約に責任制限条項を設け、リスク範囲を制限しておく必要がある。