株主除名制度は最初に、パートナー会社等の無限連帯責任を負う商業主体に導入されたものである。中国の会社法は株主除名条項を明確に定めていない。2011年、会社法の司法解釈三は出資金を全く払込んでいない又は全額引き出した株主に対し、株主会決議を通じて除名することができると規定している。同司法解釈が発布された以来、司法実践で当該条項を引用して株主資格を解除するケースは極めて少ないとされる。筆者が2015年に取り扱った株主資格解除に関わる紛争事件において、判決が下された後に、当事者は、速やかに工商行政管理机関に株主資格を解除する手続きを行った。
事件概要
原告である上海賽N斯社(「原告」)は2007年2月15日に設立された。株主は張氏と被告の劉氏であり、登録資本金は人民幣100万元である。その内、張氏は80万元、劉氏は20万元を出資した。上海市にある某会計士事務所は、株主の出資情況を検査した後、張氏が実際に80万元を払い込み、劉氏が実際に20万元を払い込んだことを確認する資本金検査報告書を発行した。100万余の資本金は全て、原告の資本金検査臨時口座に振り込まれた。
2007年3月13日、資本金検査を済ませた後、上記の100万余の資本金は原告の資本金検査臨時口座から原告の華夏銀行浦東支店の口座に振り込まれた。2007年3月16日、原告は100万元の約束手形を発行し、裏書譲渡を通じて、跨氏に譲渡した。
2015年6月4日、原告の上海賽N斯社は被告の劉氏に20万元の出資金を速やかに払い込むことを催促する書類を送付した。被告は上述の催告状を受け取った後、出資金を払い込まなかった。
2015年6月25日、原告の上海賽N斯社は、被告の劉氏に、2015年7月10日午前に、株主会会議を開催することを通知した。この株主会会議において、被告が出資義務を履行しておらず、催促した後も、出資義務を履行してなかったので、被告である劉氏の株主資格を解除することが決議された。被告は今回の株主会に出席しなかった。尚、張氏は実際に、原告に100万元余りの資金を払い込んだ。
原告の上海賽N斯社は上海市奉賢区の裁判所に、劉氏の株主資格解除決議が有効であることを確認する訴訟を提起した。
争議焦点
1、資本金検査報告は劉氏が既に出資金を払い込んだことを証明することができるか?
劉氏は既に全額を出資し、資本金検査報告がその有力な証拠の一つであると主張した。然しながら、関連証拠に基づくと、劉氏による出資金は会社口座に振り込まれた直後、引き出された。中国会社法は2013年12月28日に改正された。これに伴い、会社法司法解釈三も改正され、司法解釈三の第十二条第一項が削除された。本件の資本金検査及び出資金の引き出しは、何れも2013年12月28日以前に発生したので、改正前の司法解釈三の第十二条第一項に基づき、認定することができる。同条項は、会社が成立した後、会社、株主又は会社債権者は、関連株主の行為が下記の事由の何れに該当し、会社権益が損害されたことを理由に、当該株主による出資金引き出しを認定することを請求する場合、裁判所はそれを支持しなければならない。出資金を会社口座に振り込み、資本金検査を受けた後に、引き出した。本件において、張氏と被告は資本金検査を済ませた後、資本金を原告の臨時口座から原告の華夏銀行の口座に振り込んだ。その三日後に、張氏と被告は第三者跨氏の口座に振り込んだ。しかも被告は、再び原告に出資金を払い込まなかった、被告の行為は「出資金を会社口座に振り込んだ後に引き出した」という規定に該当するので、出資金を引き出したと認定する必要がある。
2、会社は直接、裁判所に株主会決議の効力を確認する訴訟を提起できるか?
中国会社法は、利害関係者が、株主会決議又は董事会決議がその利益を損害したと判断した場合、裁判所に決議無効又は撤回を請求することができると規定している。然しながら、利害関係者が株主会決議又は董事会決議が有効であることを確認する訴訟を提起できるか否かについては、規定していない。
一部の裁判所はその問題に対し、肯定的な意見を示している。例えば、上海第一中等裁判所は、「法律では、利害関係者が株主会、董事会決議の有効性を確認する訴訟を提起できるか否かについて規定していないが、そのような訴訟を提起できないというわけではない。立法に不備がある場合、裁判所は関連規定が存在しない又は不明確であることを理由に、訴訟の受理を拒否してはならない。会社法の規定に基づき、利害関係者が株主会決議又は董事会決議について、無効確認又は撤回訴訟を提起することができるのであれば、論理構造の視点から見て、株主会又は董事会決議に関する有効確認訴訟を提起することもできるはずである。実際の所、株式会、董事会決議の効力の未確認によって、紛争が絶えず発生しているので、司法による紛争解決機能の視点から見ても、裁判所は、受理する必要がある。
また、一部の裁判所は相反する意見を示している。例えば、上海第二中等裁判所は、「新旧会社法は何れも利害関係者が株主会又は董事会決議の有効性を確認する訴訟を提起できると規定していないので、立法機関は会社法の改正時に、利害関係者がこのような訴訟を提起する権利があるか否かについて明確な態度を示している。株主会、董事会の召集手続き、議決方式は、強行規定がある場合を除き、定款によって、決めるべきである。株主会又は董事会決議に法律法規に違反する内容がない限り、会社は自主的に決定することができる。異議のある株主が決議無効、撤回を請求する訴訟を提起しない限り、裁判所は会社自治範囲内の事務に関与してはならない。株主会又は董事会決議の効力を確認することを図る株主は、決議通りに履行しない株主又は会社に対し、決議内容の履行又は損害賠償を請求する訴訟を提起することができる。
そこで、2015年当時、面白い現象が起きた。上海市第一中等裁判所の管轄区域内においては、株主会又は董事会決議の有効確認を請求する訴訟に対し、裁判所は通常、受理したにもかかわらず、上海第二中等裁判所の管轄区域内においては、裁判所は通常、類似訴訟を却下した。多くの地方裁判所、例えば、広東省高等裁判所、北京市高等裁判所は明確な解釈を発布し、株主会又は董事会決議の有効確認を請求する訴訟を一切受理しないとしている。
審理結果
本件は上海市第一中等裁判所の管轄に属する。上海市奉賢区裁判所は法廷審理を経て、原告の上海賽N斯会社が2015年7月10日に、行った劉氏の株主資格を解除する株主会決議が有効であることを認定する判決を下した。
判決書によると、関連規定に基づき、原告の上海賽N斯社は法定の減資手続きを適時に行う若しくはその他の株主又は第三者によって、出資金を払込む必要がある。
関連思考
株主除名条項は、株主資格への剝奪であり、株主に対する最も厳しい処罰である。株主除名制度は一定の程度において、会社関係者の利益保護と社会的責任の実現に対し、制度上の保障を提供している。会社法の司法解釈三は、出資金を全く払込んでいない又は全額引き出した株主に対し、株主会決議を通じて除名することができると規定している。また、実践においても、一部の会社は定款において、一部の株主が株主権利を濫用し、董事又は高級管理職の地位を利用して私的利益を謀り、会社に損害を与える行為を行う場合、会社の権力機関(株主会又は董事会)は、決議を通じて、その株主資格を剝奪することができるという条項を設けている。然しながら、このような条項は、法律によって、明確に規定されていないため、争議が存在し、裁判に持ち込まれ、解決を図ることが屡々ある。
有限責任会社は、契約型の企業組織形態であり、会社の各株主は株主合意と定款に従い、権利を行使し、義務を負っている。株主資格は自然人の血縁関係のように、生まれつきのものと言える。従って、株主資格の剝奪について、法律で制限が加えられるのは当然なことである。関連判例に基づき、筆者は、定款に株主除名の条項を設ける場合、以下の要件を満たす必要があると考えている。即ち、株主が法定又は約定した義務を違反し、会社に重大な損害をもたらし、根本的な違約を構成し、且つ内部救済の全ての手続きを行ったことを要件に、株主を除名することができる。